2016/07/13 18:48

「三四郎」夏目漱石著

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漱石没後、100年を記念して、おさんぽ神保町が発足したコンシェルジュチームによる漱石のガイドツアー等をこの秋に開催します。ガイドツアーを楽しめるよう漱石の「三四郎」を読みました。

熊本の高校を卒業した三四郎が、東京帝国大学に入学するため、上京します。

当時の東京は、明治から41年たち日本の古い文化から西洋化が急速に進んでいました。H280723todennshimada.jpg
昔の古い建物は取り崩され、西洋式の新しい建物に建て替えられ、街にはチンチン電車が走り、電報ができ、三四郎の下宿はランプでしたが、電気も引かれ始めています。
四足は食べないと言われていた時代から、学生集会でナイフとフォークを使って牛肉を食べビールを飲み、上野精養軒でソップを吸うなど牛肉を食べていました。また淀見軒でライスカレーを食べる等洋食が食べられるようになります。
シェークスピアの「ハムレット」が、上演されるようにもなりました。
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個人主義、合理主義という西洋が300年かけて築き上げた思想を明治維新後40年でたどり着こうとしています。
明治維新前、孝(親)のため、忠(国)のため、仁(友)のため、義(社会)のためと、することなすことすべてが「他人のためだ」と言われていたのに、西洋から個人主義が輸入されると「自分のために」変わりました。
三四郎の大学の友人与太郎が寄宿させてもらっている英語教師広田は古い日本の文化を偽善、新しい西洋文明を露悪と言っています。

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その一方燈明台という古い燈台の傍に偕行社の新式の煉瓦造りの建物が建てられるということが日本社会を代表しているように、東京にはまだ古い日本の文化も混在していました。

新しい西洋文化と古い日本文化との混在する東京で、上京した三四郎は迷子(stray sheep)になります。

そんな中三四郎は、美しい女性と出会いました。

三四郎の通う東京帝国大学は、明治17年(1884年)夏目漱石が入学したときは、神田錦町3丁目にありました。三四郎が入学したときは、本郷に移されています。
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本郷に移された東京帝国大学の同郷の先輩の野々宮に会いに行った帰り、三四郎池の椎の木の下でしゃがんでいた三四郎は、扇子を持った里見美禰子と会います。

里見美禰子は女性解放を掲げる雑誌を創刊した平塚らいてうがモデルといわれています。
美禰子は、新しい時代の女性でした。

美禰子とは、野々宮の妹のよし子のお見舞いに再会し、広田の引越しの手伝いに行ったとき、一緒に部屋を片付けます。団子坂の菊人形に一緒に行き、日本帝国大学の運動会でも会います。三四郎美禰子は互いに好意を持ち出します。

美禰子も迷子でした。まだお見合い結婚が主流だった時代の中で、三四郎との恋愛に踏み切れず、兄の友人と結婚しました。

美禰子結婚後、美禰子をモデルとして描かれた絵の展覧会が開かれます。
三四郎が展覧会に行き絵を見ると、夏の終わりの暑い日、三四郎池の椎の木の下でしゃがんでいるときに、出会った扇子をもった美禰子が描かれていました。

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西洋の新しい文化と古い日本文化とが混在する明治の時代の中、江戸っ子の「坊っちゃん」は、西洋文化は相容れないと排斥し、上京した「三四郎」は古い日本文化と新しい西洋文化の間に迷子になります。

西洋文化と古い文化との間で、主人公が翻弄され「それから」、「門」「心」と漱石の作品は進んで行きます。

定本 漱石全集 岩波書店にて2016年12月刊行予定

島田 敏樹

2016/07/07 18:57

栄屋ミルクホール

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神田多町に用事があったので、昼は栄屋ミルクホールで食べることにしました。

ミルクホールは、牛乳を飲むことを推奨された明治時代に、主に牛乳を提供することを目的とした飲食店でした。

夏目漱石の「野分」でも、ミルクホールで主人公が牛乳を飲み、学生が洋菓子を食べて、蜜柑の皮をむきその汁を牛乳にたらしていました。
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「野分」が発表された明治40年頃では、ミルクホールは、牛乳と洋菓子、蜜柑などを出していたのでしょうか。

栄屋ミルクホールは、神田多町にあります。神保町から、靖国通り小川町を通過すれば、神田多町に着きます。
さっそく靖国通りを多町に向かうと、7月7日の七夕なので、靖国通り沿いには、笹の葉が飾ってありました。
晴天で汗ばむ天気なので、今夜は牽牛は、天の川を超えて織姫に会に行くことができそうです。

靖国通りを青物市場の碑のある通りを曲ると栄屋ミルクホールはありました。

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神田多町は昔青物市場があり、1日と8日に縁日が開かれた一八稲荷がある一八通りが賑わっていました。青物市場の碑があるこの通りが、一八通りかと思い地元の人に昔、聞いたことがあります。地元の人はここは多町大通りといい、この通りをさらに行き、突き当りの神田駅に向かう通りが、一八通りだといっていました。

栄屋ミルクホールに着くと、銅版のレトロな看板建築でした。
中に入ってメニューを見ると牛乳はなく、カレーライスとラーメン、おにぎりの軽食があります。
栄屋ミルクホールは昭和20年創業当時は、珈琲や甘味を提供していました。神保町最古の喫茶店茶房きゃんどるが昭和8年創業なので、この当時は喫茶店もあったはずですが、昭和20年には、ミルクホールも喫茶店のように珈琲を出すようになっていたのでしょうか。

栄屋ミルクホールは現在はカレーライスやラーメンを提供しています。H280707kare-ra-mennhimada.jpg

カレーライスを頼むと、もう2時近くになっていたので、「ライスはない」と言われました。

カレーラーメンを注文しました。
カレーラーメンは、東京ラーメンの汁とカレーがあっていて、懐かしい味がします。
もう人の流れが一段落していたので、調理していた店主の方が出てきて、水を入れてくれました。
ラーメンを食べ終わり、料金を払いお店を出ました。

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せっかくなので一八通りを通って帰ろうと思い、多町大通りを進み突き当りの一八通りを右に曲りました。
一八通りは江戸の時代から、青物市場として栄えていました。
昭和3年(1928年)に270年続いた青物市場は秋葉原に移ります。その秋葉原の青物市場も平成元年(1989年)に大田市場に移りました。

神田多町は、1丁目が昭和41年(1966年)内神田3丁目に変わりますが、2丁目だけが神田多町の町名に残り、現在神田多町は2丁目だけで、1丁目はありません。
また、神田多町は青物市場がなくなって88年たつ今でも、地元の人は、1日と8日に縁日が開かれ賑わっていたころの神田多町を思い一八通りで野菜直売イベント「一八マルシェ」を開催しています。

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そんな気骨のある神田多町の街の中で、栄屋ミルクホールは街の看板建築として佇んでいました。

島田 敏樹

2016/06/24 19:00

神保町ラドリオ

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ラドリオは昭和24年(1949年)古書店によって神保町の路地裏にシャンソン喫茶店として創立されます。
そのころの店内は今よりかなり広く、(元)鶴谷洋服店を囲むように現在のART SPOT LADまでがラドリオの店内で、小宮山書店の駐車場の前のLADの扉がラドリオの玄関でした。
店内が広いので、珈琲がこぼれたり冷めたりしないようクリームをホイップして運んだことから、ウインナーコーヒーを発祥したとも言われています。

店内に入ってみました。ラドリオとはスペイン語で煉瓦を意味し、その名のとおりお店の壁ばかりでなく、床やカウンターの椅子の足場も煉瓦になっています。

シャンソンが流れています。前回訪問したときは、越路吹雪の「サン・トワ・マミー」が流れていました。忌野清志郎がカバーして森田芳光監督の映画「バカヤロー」やドラマ「やっぱり猫が好き」で物悲しく歌われていましたが、越路吹雪の「サン・トワ・マミー」は味わいがあります。

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ミロンガヌオーバの前身のランボオが昭和24年に閉店後、作家と編集者のたまり場は、ランボオからラドリオに移りました。ランポオもミロンガとして、昭和28年(1953年)ラドリオの創立者の古書店によって再建されます。
作家や編集者等が座る丸椅子のカウンターの中にはラドリオの初代店長臼井愛子さんが女性バーテンダーとして、シェイカーを振っていました。

奥の席に座ると、現在の店長さんがメニューを持ってきてくれました。
お酒のメニューは、生ビール。黒生ビール、ハーフ&ハーフ、グラスワインの白赤、カクテルはジントニック等のジンベースのカクテル、ラドリオ特製マティーニがあります。
ラドリオ特製マティーニを注文しました。
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「お酒を注文すると、ラタトゥーユ、チーズ、ナッツのうちから、お通しを選べます。」
と言われたので、ナッツを頼みました。

カウンターの中では、シェーカを振っていた臼井愛子さんはもういませんが、ウエイトレスさんが女優ライトに照らされてお酒のおつまみを作っています。

暫くして、ナッツとマティー二を持ってきてくれました。
マティーニはジンをステア(スプーンで軽くかき回す)で作る透明なお酒です。007の映画ではジェームスボンドが、マティーニをウォカでしかもシェクして作るように求め、お酒にも強い男をアピールしていました。ラドリオ特製マティーニはジンをステアで作ったもののようでした。
お酒を飲み終わりレジに向かいます。

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レジの隣りではラドリオのマッチやカップに描かれている牛をデザインした彫刻家本郷新のマドンナ像が店内を見守っていました。

ラドリオはランチにカレーとナポリタン、午後は珈琲とケーキが食べられ、夜はバータイムになります。

島田 敏樹

2016/06/18 19:06

ミロンガヌオーバ

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ミロンガヌオーバは、その昔ランボオといい、1947年(昭和22年)出版社によって神保町の路地裏に創立された喫茶店でした。
昼間から酒が飲めるお店ということで、三島由紀夫、遠藤周作、吉行淳之介等の作家と編集者のたまり場になります。
その頃、一人の美少女がウェートレスをしていました。少女は作家たちのアイドル的な存在です。そんな少女に作家のひとりがプロポーズをしました。作家は武田泰淳、美少女は後に武田百合子となります。

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タンゴの音楽が聞こえてきました。ランボオは1949年(昭和24年)になくなり、現在はタンゴの音楽の流れる喫茶店ミロンガヌオーバです。
店内には、バンドネオンが飾ってあり、レジの後ろには古いレコードと蓄音機が置いてありました。

ウエイトレスさんが、注文したメキシカンジャンバラヤとワインを持ってきてくれます。

ミロンガヌオーバの時代になり、平成を迎え一人の女性がウェートレスをしていました。

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春は開け放たれた扉から爽やかな風を感じ
夏にじょうろで路地に水をまき
秋の肌寒さにさびしさを覚え
冬はすきま風に寒さを感じ

ホームレスのあさこと言葉を交わし
ホームレスのジミーが街から追い出されたことを憤り

カウンターの中から

ビールをもう一本注文して、リクエストした「奥さま御手をどうぞ」を聞いて静かに涙ぐみ、帰りがけに「大好きな人と。お別れしたんです。」といったおじさん。

この店で母が働き、父がお客としてきていて、両親の出逢いの場だとお店をスケッチしている若い女性。H280608mironngaburenndoshimada.jpg

タンゴと煙草を愛していた死んだお父さんがこの店によく来ていたからと、むかしお父さんが吸っていたのと同じ煙草に火をつけ、ゆっくりと味わう男性

いろんな人生を見守っていました。

そんな彼女は
2冊のエッセイを残して、
そして、
ミロンガヌオーバの鼓動であるタンゴのリズムがいつまでも止まらないことを願って、
亡くなりました。

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ワインを飲み干して、ミロンガブレンドを注文しました。

珈琲豆を挽いた香ばしいにおいがしてきます。
壁には世界のビールが飾ってありました。

彼女は教えてくれました。
「タンゴは人生そのものだ」と
そして
タンゴの永遠のテーマは
「愛と孤独と」
であると。

神保町タンゴ喫茶劇場 堀ミチヨ 著  新宿書房
神保町書店及びミロンガヌオーバにて販売中です。

島田 敏樹

2016/06/16 19:03

書店ガール

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書店ガールの新刊書店ガール5が、先月販売されました。三省堂神保町店にひっそりと並んでいます。

書店ガールは、2015年にベテラン書店員西岡理子役に稲森いずみさん、若い書店員小幡亜季役にAKB48 渡辺麻友さんでテレビドラマ化されました。

書店ガールの舞台は本の街神保町ではなく、吉祥寺の大型書店でしたが、書店員の物語なので1巻から読んでいました。

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1巻では、小幡亜季の結婚式で上司の西岡理子に結婚式のご祝儀を叩き返すことから、物語は始まります。
何かにつけぶつかりあう二人でした。
職人気質の西岡理子は本を並べることにこだわりがあり、 できればPOPなど置きたくありません。
そんな西岡理子に対して、「頭古―い。今や書店のPOPは常識だってのに」と若い書店員の小幡亜季は反発します。

あるとき、書店が借りているビルが建て替えで家賃が上がり、書店を閉店せざるを得ないと専務に言われました。
書店を閉店したくない理子は、売上を今より500万円上げることを条件に社長に書店の継続の約束を取り付けます。

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そんな理子に、亜紀は書店を守るため協力します。

対立しあう二人でしたが、紙の本とリアル書店が好きなのは同じでした。

社長が任せると言われた電子書籍を、理子が「私はリアル書店で紙の本を売りたい」と断った、と聞いた亜季は
「そうですよね。本屋はちゃんとお店があって、紙の本が並んで、店員とお客様がいるからいいんだわ。」本は「本屋で売っているのが一番素敵に見える」といいます。
理子も、亜紀の言うとおりだ「電子書籍は本ではない。データだ。本屋はお客様や営業の人や書店員、いろいろな人間がいて、直接会って話たり、ときにはぶつかりあって何かが生まれる。本というものを媒介として人と人が繋がっていく。それが書店だ。私が好きな書店だ。」と思いました

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書店ガール4巻からはお話しは、理子と亜季の後輩の愛奈と彩加に移ります。
そして書店ガール5巻では、取手駅構内の店長に抜擢された彩加と、小幡亜季の夫のライトノベルの編集者の小幡伸光のお話しです。
彩加は、自分好みの文芸書中心に並べていた本の売れ行きが悪く、アルバイトの協力を得て、お店の立地にあった本の品揃えや並び方を変えた矢先、新人作家の打ち合わせに編集者の小幡伸光取手の書店に訪れ、彩加に出会います。二人が出会った時、お話しは意外な展開になっていきます。

書店ガール5 碧野 圭著 PHP文芸文庫

 

神保町書店にて販売中です。

島田 敏樹