2023/09/12 23:56

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.20 無用之用

IMG_6359.jpg

一見無用に思えるものこそ本質的な価値がある”。その昔中国の哲学者、老子が残した言葉だ。それをそのまま店名にした無用之用。取材に応じてくれたのは店主の片山淳之介氏(43)。開業はコロナ下の20206月、すずらん通りに店を構え、その後いったん閉店するもつい先月の20238月新たに近くの移転先(神保町1-21-2一和多ビル2F)でオープンしたばかり。入口は表通りの裏側にあるが、ビルの2階に上がると奥行のある店内には大きなカンター席と本棚がならんでいる。片山氏は以前デザインの仕事をしていたそうでそのセンスを感じさせる街なかのオアシスのような落ち着いた雰囲気のブックカフェだ。窓越しからは神保町の書店街のランドマーク的存在で現在建て替え中の三省堂書店跡地が見える。もともと神保町という街が好きだったという片山氏。「ここで過ごす人、住んでいる人、訪ねてくる人、みんな黙っているけれども話してみると何かしらのマニアで、たとえばマンホールに詳しい、地図や地形に詳しい、郷土料理や日本中の方言に詳しい人などなど。何かしらに興味をもっていても、それをひけらかさない、そういう面白い人が神保町に集まるんです」と語る。店を訪れる年齢層は20代前半の大学生から70代くらいまで。X(旧Twitter)やインスタといったSNSを見てくる人が多いが、“無用之用”という店の屋号が気になってくる人も。コロナ以前のように人が戻ってきているという感触は確かにあって外国人や若い人、とくに女性が多くなった気がする、と語る。「昭和レトロがブームでSNSを見て行列ができているが、わかりやすく噛み砕く必要はなくて、初めてくるお店でも怖がらず、構えないでのぞきに来てほしい」店内の本棚は一般的な書店とちがった特徴がある。「感覚的なテーマがあって半分くらいお客さんがいっしょに考えてくれています。」本棚を見ると例えば“視点をデザインする”、“探さなくとも遊びはすぐ近くにあります”、 “知ってる事も、蓋を開ければほとんど知らない事だらけです”・・といった一見、あれ何だろう?とそこにある本を思わず手にとってみたくなるようなリストが並んでいる。エッセイだけを読みに来たつもりが気づけば違うジャンルの本にも手を伸ばしている・・そんな新しい本との出会いをつくるユニークな棚づくりがそこにあった。さらに片山氏は続ける、「必要なものは変えていっても、来てもらうために変えるのではなく、もともとある面白さ、魅力をわかりやすく伝えて本好きな人はもちろん、本を読まない人でも面白い街なんだと思ってもらえたらいいですね。」

IMG_6358.jpg普段の営業時間は平日夜8時くらい迄で、金曜、土曜は10時くらい迄。話が遅くまで盛り上がっているなと思ったら、まだいいですよ、と午前0時までやっていることも。店に来る客のなかには開店から閉店(途中で美容院に行って中抜け)までいる人もいるそうだ。そうかと思えば出版や印刷関係の会社に勤めている客もいて普段はお互いの素性も明かさず、名刺交換もないなかで、いつの間にか話が盛り上がり仕事でつながるようなこともあるのだとか。

「本屋でも飲食店でも若い人たちにお店の人ともっとしゃべってもらいたいと思います。こんにちは、だけでなくてお店のメニューことを聞いてみたり、ひと言ふた言でも会話をするだけでいい、ただ頼んでお金を払って食べて帰るだけでなくなります。しゃべって楽しんでもらうことで来てよかったなという思い出、経験になるんです」と片山氏。老舗の書店が立ち並ぶなか、無用之用はユニークな発想で新しい書店のひとつのかたちを描いているように感じた。本の向こうにある人との出会い、そんなきっかけを創ってくれる書店だ。

 

最後に一言

子供の頃の砂場あそびみたいに、見ず知らずの間だった人が自然にふれあっている、

そういう場所にしたいです。

 

・・・無用之用、片山さんありがとうございました!

 

 

取材日 2023.9.5 ライター:みずも

 

2023/08/14 16:05

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.19 南海堂書店

今回紹介するのは靖国通り表通り沿いにあるレンガづくりの建物の店舗が目を引く南海堂書店。取材に応じてくれたのは3代目の市田哲氏(52歳)。創業は兵庫県出身の祖父の武夫氏で昭和IMG_6043.jpg21年に法人経営になったという。同店は歴史(日本史、東洋史、西洋史)を軸に、社会学、哲学、法律など社会科学の学術研究書を扱っている。神保町の書店が専門分野化するなか先代の頃からとりわけ西洋史に力を入れるようになったと市田氏は語る。主な客層は大学教授、院生などの歴史研究者。学会などが東京で催されるとその足で遠方から訪ねてくる教授もいるそうだ。店内の本棚に目をやるとアカデミックな雰囲気が漂い、西洋史の棚にはアメリカ関係、イギリス関係など国ごとの書籍がならんでいる。温故知新、歴史は大人が学ぶべき教養のひとつといえる。今の若者世代を中心に受け入れられているポップカルチャーとは一線を画すように神保町の書店街の特徴はこうした重厚な内容の書籍を扱う書店も多くあり、実にいろいろなジャンルの本がとり揃うところだと思う。そしてそれを支えているのは言うまでもなく個々の書店であり書店人たちだ。最近神田古本まつりが再開し、人がまた集まってくる良い機会になっているが、それも回数だけ増やせばいいのか、情報がネット化されるなか神保町ブランドも昔ほどではないがまだまだ発掘できる魅力的なものは埋まっていると市田氏。同店も日本の古本屋のサイトにIMG_6040.jpg出店しているが、店舗に訪れる客がそちらに置き換わる感じで全体的にはまだ変わらないといった印象という。発信するということにこれからますます目を向けつつ外からの意見もとり入れていきたいと次の世代に襷をつなぐべく取り組んでいる姿を感じる。これまで神保町の書店の取材をしていると店主が50代というところが少なくない。筆者も実家が書店だった同世代(そろそろ60が迫ってきた)としておさんぽ神保町の記事を通じてエールを送り続けていきたいと思っている。取材のおわりに店内の写真撮影をお願いすると、みんな撮っていくんですよと、と市田氏が指さした店の真ん中には知己の京都の住職が彫ったという大きな達磨像(写真)が。達磨は昔から願いごとを叶える縁起のいい置物を言われているが、まさに店全体を見守っているようなフィット感があった。教科書にはない、少し難しそうな本の数々。敷居は高そうだが先人たちの残した文献のなかには未来のヒントが隠されているのかも。歴史を学び直し、知の探究をしたいという方、是非同店を訪ねてみては。

 

最後に一言

 

神保町でも西洋史を主に扱っている書店は少ないのでご覧ください。

 

・・・南海堂書店、市田さんありがとうございました!

 

 

取材日 2023.8.7 ライター:みずも

 

2023/08/12 09:37

この秋4年ぶりに神保町ツアーを再開します

この秋に4年ぶりに神保町ツアーを再開します。
奮ってご参加ください。

※最新の空き状況は詳細ページよりご確認ください。

tour_202308_1.jpg

~関東大震災から100年~『神保町レトロ建築さんぽ2023』

詳細 https://helloaini.com/travels/4826?prcd=xWgL

9月23日(土)
10月21日(土)
11月18日(土)

学士会館でランチ、今回特別に会館スタッフによる館内ツアーも体験できます。

 

tour_202308_2.jpg

『夕暮れの神保町路地裏さんぽ』

詳細 https://helloaini.com/travels/5907?prcd=xWgL

9月16日(土)16:00
11月25日(土)15:00

2時間程度を予定。ツアー後、希望者は梅の湯に入れます。また希望で路地裏の店で飲めます。

2023/07/11 18:53

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.18 内山書店

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.18 内山書店 

 神保町に百年以上の歴史をもち日中友好の懸け橋となった書店がある。街の目抜き通りでもあるすずらん通りのほぼ中央にある内山書店がそうだ。取材に応じてくれたのは営業部課長の高橋美千代さん。写真は現社長の内山深さん(51)。その創業は1917年、中国・上海で目薬の行商していた内山完造氏が妻の美喜氏と共に自宅玄関先で日本から本を取り寄せて現地の日本人に売っていたのが始まり。後に上海で随一の日本書店に成長、1935年には完造氏の弟の嘉吉氏が東京の世田谷で中国から書籍を取りよせて中国専門書店を開く。その後1968年に学生が多いここ神田神保町に移転。1Fは中国の語学、歴史、政治、経済、現代文学、旅行・地図など、2Fは中国の古典文学、芸術、武術CD/DVDほかタイ、インドネシア、ヴェトナム、韓国、インドなどのアジア諸国に関する書籍、3Fは中国・アジアの古書が置かれている。主な顧客は中国関係の研究者、それを専攻している学生で大学、図書館関係者だという。また中国からは政治的にセンシティブなものなど自分の国で手に入りにくい書籍も研究目的で探して購入している人もいるという。中国に企業が進出していることにともなってビジネス書の需要もある。更に近年はアジアカルチャーに興味のある人が増えてきているのだそうだ。店内の書棚には中国の書籍の日本語版、日本の書籍の中国語版がならぶ。中国でも日本コミック、小説、SF、ミステリーなどのコンテンツは人気がある。高橋氏に今の売れ筋を聞くと、輸入書でもやわらかなもの、コミック類、現代小説という回答が。中国でもメディアミックスが流行っていて小説をコミカライズしたりドラマ化して若い人向けにコンテンツ化している。日本で中華系のドラマを見てファンになった人が原書にチャレンジしている姿もあるのだという。

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.18 内山書店

中国でも有名な書店

今年の春頃からコロナでしばらく足が遠のいていた中国からの客も増えていると高橋氏。内山書店はその名が教科書に出ているくらい中国でも有名な書店だ。内山完造氏は日中文化人と交流を持っていたとされているが中国文学界に大きな足跡を残した作家である魯迅と親交があったことも大きい。当時の軍閥政府に目をつけられ、上海に逃れていた魯迅が内山書店を訪れていたことから関係が深まっていった。中国からの旅行者が日本に来たら内山書店に来てみたかったという記念来店も多いそうだ。人通りの多いすずらん通りに店をかまえ、ショーウィンドーをみながら中国のことと関係なくふらっと訪れる人もいる。こうした書店があるのだということを知ってもらうとともに神保町をもっと面白い街だな、と思えるようアピールできれば、と最後に内山社長が語ってくれた。

 

内山書店、内山さん、高橋さん、ありがとうございました!

 

取材日 2023.7.4 ライター:みずも

2023/06/07 13:18

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店

  神保町を歩いていると画廊のような書店をみかける。今回紹介するのは江戸時代の浮世絵から現代アートまで、アートの専門店の山田書店。昨年2022年に店舗改装を行っており、同店についてはホームページを参照されたい。浮世絵・版画・美術書の専門店 山田書店美術部:古書の街 神田神保町 (yamada-shoten.com) ART BASE 山田書店 (artbase-yamada-shoten.com) 

神保町駅を降りて交差点から靖国通りを駿河台下方面に少し歩いた表通り沿いに同店がある。今回1Fから3Fを取材させてもらった。お店には国内外の博物館関係者、コレクター客が訪れ、アフターコロナで外国人の方もだいぶ多くなったという。フロアごとに展示をかえた商品が並んでいる。

F 美術関連書籍、現代アートのフロア

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店

店頭には通りすがりの人たちが気軽に手に取ってみられる版画や浮世絵のカード、子供の図鑑、絵本などが目を引く。さらに店の中に入ると画集、展示会カタログなどの美術書が並んでいる。同フロアの現代アートは“猫おし”。いろいろな猫の絵画がたくさんおかれていて、猫好きの人はしばらく店の中をながめているだけでも楽しめる。

F おもに浮世絵のフロア

 「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店

落ち着いた雰囲気のフロアの真ん中にはショーケースがあり、中に色鮮やかな浮世絵が展示されている。浮世絵は江戸時代に庶民の間で流行して幕末以降にパリを中心としたヨーロッパで日本を代表する美術として評価されたという歴史をもつ。美術館に来た感覚で昔の庶民の文化をあじわいながらお目当ての作品が探せそうだ。

F 国内外作家の絵画、版画のフロア

 「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.17 山田書店

3階はまるで絵画の個展を見に来た気分を感じさせてくれる開放的なスペースだ。国内外の作家の現代アート作品が壁一面に飾ってある。少し目を横にやると現代風にデフォルメした写楽の絵の展示も。素人目にも楽しめる作品も展示されている。

 

アートを暮らしに取り入れて楽しむ人は最近増えてきているように思う。同店ではオンラインストアも行っており、より多くの作品が見られるし、ネットにない商品も店頭で直接見ることができるという。

アートのことは多くを語るより“百聞は一見にしかず”だ。是非同店に足を運んでみては。

・・・山田書店さんありがとうございました!

 

 

取材日 2023.6.3 ライター:みずも