2024/02/20 17:13

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.25 PASSAGE by ALL REVIEWS

PASSAGE1.jpgこの3月に古書店が並ぶ靖国通りに500棚のシェア型書店PASSAGE SOLIDAがオープンする。取材に応じてくれたのは運営するALL REVIEWS株式会社の代表、由井緑郎氏(42)2022年3月すずらん通り1号店を開業。その1年後には同じビルの3Fにカフェ併設の2号店を出した。シェア型書店とは個人やコミュニティグループ、実際の書店など複数の棚主に月額で棚のボックスを貸して運営する共同書店だ。

開業までのいきさつ、本に対する思いを聞いてみた。由井氏の父はフランス文学者で文芸評論家の鹿島茂氏。神田神保町書肆街考という著書もあり神保町と古書への造詣が深い。由井氏も少年時代から溢れるほどたくさんの本に囲まれていたと話す。おそらく学者宅の蔵書数は一般人のそれと比較にならないものだったのではと察する。由井氏は広告代理店に勤務、その傍ら父鹿島氏の仕事上のマネジメントにも携わった。6年ほど前にALL REVIEWSという書評のアーカイブサイトを立ち上げた。さらに試行錯誤してファンクラブをつくり、イベント、交流会や対談の映像を配信するなどを続けていくうちに読書好きの生の声が聞けるようになった。その後知り合いの棚貸し書店のひと棚をALL REVIEWSで借りたことで、そのノウハウをヒントにWEBの知識を総動員し、そのためのシステムを由井氏が中心となって開発し、自らがシェア型書店をつくることに。そこで由井氏はWEBプロデューサーの立場で、父の鹿島茂氏は作家、書評家としての立場で、最も望ましいものは何かと親子で議論をかさねたという。

IMG_7110.jpg最初のすずらん通りの1号店出店にあたってALL REVIEWSと関わりのある作家の招待棚主枠を設けた。店内の棚にフランスの通り名をつけたのは仏文学者である父鹿島氏のアイデア。棚主からの本はデータベースをもって単品管理しているので検索すれば誰でも案内できる。始めてみないとわからないところはあったが3か月もすると、棚が開くと40~50倍の倍率がつくほどになっていた。店づくりは自由であれという考えのもと、現在地方から棚主も集まり北海道から沖縄までいるのだそうだ。最近は外国人の来客も多く、今後は海外の本も積極的に受け入れていきたいと語る。1、2号店が主に神保町ファンが足を運ぶすずらん通りにあるのに対して、新たな店舗PASSAGE SOLIDAは靖国大通り沿いの古本屋街にあえてモダンにつくる古本屋もいいのではないかということで需要も見込み3号店としてオープンすることに。

 古本のマネタイズ(収益化)のためアクティブにビジネスをとらえたい、本は置いておけば売れる時代ではない、と由井氏。神保町の観光地化が言われる昨今、多くの人が本屋街を訪ねてきてSNS上で“いいね”だけ拡散されても書店は潤わない。書店を生業とする以上、本が売れる仕組みがなくてはいけないのだ。シェア型書店で本が売れるメカニズムについて由井氏はこう話してくれた。「現地で見てほしくなるのと、事前に情報としてインプットされて欲しい気持ちが重なると売れる確率が上がるのです。おすすめしているのがSNSで頻度よく売りたい本を何回も時間をかけて告知をすることです。たとえ「いいね」がつかなくても、“この本を売ります→この本を置きました→この本を売れました”、という一連の流れを見ている人がいて、そこにファンがついてくれば、良いサイクルになってくる。一方で棚を借りたまま何もしない棚主さんもいて、本が売れないので辞める人もいますが、SNSの活用を着実にやっている棚主さんは1号店から根づいています。」そしてこう続く、「それぞれの店主があらゆる手を使ってその本の価値を共有して売っていく、共同書店で「好き」、「推し」の空間をつくり出すのです。」さらに売る側については月ごと、時期ごとにテーマを変える人もいるが、一貫性をもって専門性が強ければ強いほど買手には伝わりやすく売れるとも語ってくれた。

由井氏の話を聞くと永続化できる書店・出版業界の仕組みを考えているのがわかる。棚貸しシステムを地方の新刊、古書店に入れて棚主を生む。(既に同社のシステムを地方で導入している事例もある)それが収益化できれば家賃に苦しめられることから脱することができる。さらに棚貸の本が売れた場合の販売手数料から一定割合を版元と著者に還元するというアイデアも。本の著者にとっても一度書いた本が中古市場に流れても一筋の光明が見える。書店、出版業界の救世主的なビジネスモデルになるかも知れない。

地方では本屋がなくなる街もあり、懸命に本屋の灯を消さないよう取り組んでいる人たちもいると聞く。日本で、いや世界でも有名な“本の街、神保町”での取組みを多くの人たちが注目しているにちがいない。

 PASSAGE / bis! / SOLIDA

https://passage.allreviews.jp/

棚主お申し込みは上記サイトから!

 

・・・PASSAGE by ALL REVIEWS 由井さん、ありがとうございました!

 

               取材日:2024.2.15  ライター みずも