2023/11/13 18:45
「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.22 イタリア書房
日本ではじめてイタリア本の輸入を始めた書店、それがイタリア書房だ。取材に応じてくれたのは社長の伊藤道一氏(61)。1958年、当時東京外国語大学イタリア語学科大学院一期生だった父の基道氏が創業。(道一氏も東京外語大学イタリア語科を卒業)
当時文化功労者の有島生馬氏が会長をつとめるイタリア文学会の幹事やっていた際に大学の先生からイタリアの本が手に入らないか相談され、個人で仕入れて販売したところさらに商売にならないかとの要請を受けた。将来教職に入る道もあったが、こちらの方が必要で面白いということで書店をはじめたのだそうだ。その後すぐに外語大のスペイン語やポルトガル語の先生たちからも自分たちの本が欲しいということで同様に仕入れを始め取り扱うようになった。当初基道氏の下宿で始めたが程なく第一書房の編集者でイタリア文学者でもあった三浦逸雄氏から神保町を紹介され店を構えることになったという。「書店だけで食べていくのが大変なので、イタリア語を教えたり、大学の教授から旧帝大など国立大学の紹介を受けてリュックに本をつめて北海道から九州までまわっていったところ商売が軌道にのりはじめ1961年には会社組織になりました」と店の歴史を伊藤氏は語る。同店はフィレンツェにも2008年から店舗を構え、社長の妹が常駐し日本の書籍を販売している。イタリア語を学ぶ人は日本では少なく、研究者が中心で国会図書館が主な取引先。また公共の図書館はポルトガル語、スペイン語の需要は多いのだそうだ。実際の本の取引は図書館、大学が中心だが、店には学生をはじめイタリア語などを学び始めた人たちが訪れ、外国人はヨーロッパだけでなくアジアの人も多いという。中には若い学生だった人が定年になっても訪ねてくる姿もある。「やはり年配者の方々のほうが活字に熱心だと思います」と伊藤氏。
同店は1982年に日本ではじめて日本―イタリア語の辞典である和伊辞典(高橋久氏著)の出版を手掛け吉川英治文化賞を受賞している。当初は著者が出版を試みるも紹介された数々の出版社に断られ、最後に同店が社内の反対を押し切って送料込みの申込みによる直売だけの出版販売を行ったところすぐに完売となって反響をよび、大手新聞紙にも採り上げられて、以前拒絶した出版社がそれぞれ和伊辞典を出版したというエピソードもきいた。「それが父のイタリアの文化を日本に広めるという事業のひとつだったのだと思います」と伊藤氏は語る。
ところで私たちが学んだ歴史では、日本はイタリア人のマルコポーロが13世紀に記した「東方見聞録」に黄金の国ジバング(日本国を当時の中国語で発音した音が語源という)の名で世界にはじめて紹介された。その後時代が下って日本にキリスト教の布教はじまると、1582年に天正遣欧少年使節がヨーロッパに派遣された。使節団はローマ教皇やスペイン国王に謁見し、日本と日本人を世界に知らしめるのと同時に彼らが西洋文化を日本に持ち帰り、わが国における国際親善外交のはじまりともされる。写真はその当時の記録としてローマで出版された稀覯本。こうした当時の事実が記述されたリアルな本を目の当たりにすると時代を超えて私たちの普段眠ってしまいがちな好奇心が掻き立てられる気がする。そういう体験ができるのも神保町の書店街ならではないかと思う。神保町に訪れた際に是非同店に足を運んでみては。
最後に一言
イタリア語、スペイン語、ポルトガル語専門の草分けの書店です。その分野のご要望があればお問い合わせください。
・・・イタリア書房、伊藤さんありがとうございました!
取材日 2023.11.5 ライター:みずも