2023/10/16 19:31
「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.21 農文協・農業書センター
日本で唯一の農業専門書店といえば、ここ農文協・農業書センターだ。取材に応じてくれたのは店長の荒井操氏(67)。1994年に大手町でJAビルで開設。2014年に神保町に移転したのち、入居ビルの建替えがあり2021年現在の場所に(神田神保町3-1-6日建ビル2F)。母体である出版社の農文協は農水省の外郭団体としての一般社団法人で「農家に学び、地域とともに」生きることを根幹にすえて活動し80年以上の歴史をもっている。同店は全国の農家が顧客だが大手町のときは専ら農業団体、関係者だったところ神保町に来てからは農業、食に関心のある一般の人が訪れるようになった。最近の特徴として「農業をやりたいという若い人、法人として大きくやりたいという人も増えてきた」と荒井氏。同店は料理好きの人のレシピ本、生活、園芸、住まいや暮らしに関する本から一般書店では手に入らない技術書、専門書といった「食」に関するマニアックな本が揃っている。本棚にならぶ書籍の一例を紹介すると、まずはおさんぽ神保町No.33“神保町で日本巡り”の取材記事でも紹介した“伝え継ぐ日本の家庭料理全集”。 日本各地で昭和35~45年の食生活を聞き書きして選ばれた料理で、家庭でつくれるレシピばかりを集め、料理のいわれ、地域の歴史や風土など、聞き書きしたお年寄りの話も掲載。読みものとしてもおもしろく、テーマごとに全国を俯瞰して料理の比較ができる(各巻平均90品、全巻1400品超のレシピ)。その他にも“農家が教える加工・保存・貯蔵の知恵”、“自分で地域で 手づくり防災術”、朝ドラ「らんまん」のモデル、牧野富太郎の書籍などなど、店内には農業関係書籍36,000冊が販売されている。(写真は10万部出版されている農業技術、農家の生活、暮らしをおさめた月刊誌現代農業)
さて、ある年齢以上の人には記憶があるかもしれないが昔NHKで「明るい農村」という日本各地の農家を取材したドキュメンタリー番組があった(放送は1963~1985)。高度経済成長のただ中で農村から都市へ労働者が移動して過疎化がすすみ、減反や経済摩擦、農作物輸入自由化など農業をとりまく環境はそのタイトルのとおり「明るい」とは必ずしもいえる状況でなかったと思う。それでも1960年代当時の日本の食料自給率は70%台。しかし現在はどうだろうか。統計によると現在のわが国の食料自給率は40%を切っていると言われる。ちなみにオーストラリア200%、アメリカ122%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%。日本の食料自給率は先進国のなかで最低水準。果たしてどれだけの国民がそれを認識しているのだろうか?戦争や異常気象などの自然災害など最近の世界情勢のなかでひとたび有事が発生した場合に日本は深刻な食糧危機に陥ることが予想され、専門家も警鐘をならす。食料価格も高騰しているなか食料安全保障についてますます真剣に考えなくてはいけなくなってきている。「都会の人も食料の貯蔵、加工を昔の人の知恵から学ぶことも必要ではないか。車はなくてもいいが、食料がなくては生きられない」と荒井氏。食や暮らしについてあらためて考えなおすとき同社のホームページに書かれていることが目に留まった。“世界の潮流も変わってきました。国連は「小農・家族農業」とこれを支える地域にこそ、貧困や環境問題を解決する力があるとして「家族農業の10年」(2019~2028年)を定め・・日本でも地域コミュニティをめぐる動きが活発になっています・・農家、農村と関わることで自らの暮らしに安全・安心と生きがいを求める・・国土交通省によると特定の地域と継続的かつ多様な関わりをもつ「関係人口」のは三大都市圏で2割強の1080万人に及んでいます。移住とともに関係人口を増やして「新しい農型社会」を。そんな夢と希望を胸に、元気に歩み続けたいと思います”。荒井氏との話のなかで国が進めようとしている農業の大規模化やIT化は実際のところむずかしいこと、それよりも先行きの分からないこれからの時代、地に足の着いた仕事がしたい、儲けようということでなく農業に関心をもつ、自然と共に生活を楽しむ、そういう人が増えているとも聞いた。本当の意味で「明るい農村」がこれから日本の各地に根づいたらいいなと思う。
最後に一言
家庭菜園、食べ物、暮らしなど農業に関する本を多数とりそろえています。
・・・農文協・農業書センター、荒井さんありがとうございました!
取材日 2023.10.7 ライター:みずも