“ 一見無用に思えるものこそ本質的な価値がある”。その昔中国の哲学者、老子が残した言葉だ。それをそのまま店名にした無用之用。取材に応じてくれたのは店主の片山淳之介氏(43)。開業はコロナ下の2020年6月、すずらん通りに店を構え、その後いったん閉店するもつい先月の2023年8月新たに近くの移転先(神保町1-21-2一和多ビル2F)でオープンしたばかり。入口は表通りの裏側にあるが、ビルの2階に上がると奥行のある店内には大きなカンター席と本棚がならんでいる。片山氏は以前デザインの仕事をしていたそうでそのセンスを感じさせる街なかのオアシスのような落ち着いた雰囲気のブックカフェだ。窓越しからは神保町の書店街のランドマーク的存在で現在建て替え中の三省堂書店跡地が見える。もともと神保町という街が好きだったという片山氏。「ここで過ごす人、住んでいる人、訪ねてくる人、みんな黙っているけれども話してみると何かしらのマニアで、たとえばマンホールに詳しい、地図や地形に詳しい、郷土料理や日本中の方言に詳しい人などなど。何かしらに興味をもっていても、それをひけらかさない、そういう面白い人が神保町に集まるんです」と語る。店を訪れる年齢層は20代前半の大学生から70代くらいまで。X(旧Twitter)やインスタといったSNSを見てくる人が多いが、“無用之用”という店の屋号が気になってくる人も。コロナ以前のように人が戻ってきているという感触は確かにあって外国人や若い人、とくに女性が多くなった気がする、と語る。「昭和レトロがブームでSNSを見て行列ができているが、わかりやすく噛み砕く必要はなくて、初めてくるお店でも怖がらず、構えないでのぞきに来てほしい」店内の本棚は一般的な書店とちがった特徴がある。「感覚的なテーマがあって半分くらいお客さんがいっしょに考えてくれています。」本棚を見ると例えば“視点をデザインする”、“探さなくとも遊びはすぐ近くにあります”、 “知ってる事も、蓋を開ければほとんど知らない事だらけです”・・といった一見、あれ何だろう?とそこにある本を思わず手にとってみたくなるようなリストが並んでいる。エッセイだけを読みに来たつもりが気づけば違うジャンルの本にも手を伸ばしている・・そんな新しい本との出会いをつくるユニークな棚づくりがそこにあった。さらに片山氏は続ける、「必要なものは変えていっても、来てもらうために変えるのではなく、もともとある面白さ、魅力をわかりやすく伝えて本好きな人はもちろん、本を読まない人でも面白い街なんだと思ってもらえたらいいですね。」
普段の営業時間は平日夜8時くらい迄で、金曜、土曜は10時くらい迄。話が遅くまで盛り上がっているなと思ったら、まだいいですよ、と午前0時までやっていることも。店に来る客のなかには開店から閉店(途中で美容院に行って中抜け)までいる人もいるそうだ。そうかと思えば出版や印刷関係の会社に勤めている客もいて普段はお互いの素性も明かさず、名刺交換もないなかで、いつの間にか話が盛り上がり仕事でつながるようなこともあるのだとか。
「本屋でも飲食店でも若い人たちにお店の人ともっとしゃべってもらいたいと思います。こんにちは、だけでなくてお店のメニューことを聞いてみたり、ひと言ふた言でも会話をするだけでいい、ただ頼んでお金を払って食べて帰るだけでなくなります。しゃべって楽しんでもらうことで来てよかったなという思い出、経験になるんです」と片山氏。老舗の書店が立ち並ぶなか、無用之用はユニークな発想で新しい書店のひとつのかたちを描いているように感じた。本の向こうにある人との出会い、そんなきっかけを創ってくれる書店だ。
最後に一言
子供の頃の砂場あそびみたいに、見ず知らずの間だった人が自然にふれあっている、
そういう場所にしたいです。
・・・無用之用、片山さんありがとうございました!
取材日 2023.9.5 ライター:みずも