2023/02/03 19:33

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.13 南洋堂書店さん

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今回紹介するのは建築専門書店の南洋堂書店さん。創業は1926年。現在の店主は3代目、荒田哲史さん(61歳)。取材に応じてくれたのは店員の新宮岳さん(44歳)。書店でアルバイトをし、建築の歴史を勉強していたのがきっかけで16年ほど前に同店に入社。店舗は1980年建築家の土岐新氏の設計。2007年、1,2階を同じく建築家の菊地宏氏が改装。コンクリート打ち放しで正方形がモチーフになっている。店内も1,2階が吹き抜けで解放感があり、さすが建築専門書店の雰囲気を感じさせる。同書店が建築を専門に扱い始めたのは先代の演彦(のぶひこ)さんの昭和50年代の頃からだそうだ。当時大学(明治大、日本大、電機大、理科大など)の建築学科とのつながりがきっかけ。顧客は主に建築関係の大学、研究者、学生などが中心だが、最近のブームの影響か街歩きから建築ガイドを探しに訪れる客もいるとか。新宮さんに店内書籍を案内してもらった。本棚には復興建築、看板建築、純喫茶建築の本など素人でも興味深そうなものからプロが見るような国内外の建築家の作品集が並ぶ。建築という言葉を単に辞書で引くと家や橋を建てるといった簡単な説明だが、建築という学問を調べてみると実はもっと奥が深い。工学や社会学さらに芸術・文化的側面をもつ。「快適性」、「災害に強い」、「美しいこと」を追求する。都市計画、まちづくりにも関わっていて、近年コミュニティに果たす役割も注目されるまさに理系、文系の垣根を超えたマルチな学問だ。人のいるところには建築があり、そこに地域性や歴史性が現れるという。わが国の建築も伝統を受け継ぎつつ現代につながっている。建築業界のノーベル賞といわれるプリツカー賞という賞があって、日本からはこれまで8人の受賞者を輩出し、国別ではアメリカと並んで最多なのだそうだ(あまり知られていない?)日本の建築が海外から高い評価を受けている証しだろう。

街歩きで建築めぐり

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神保町を歩いているとレトロな看板建築に出会ったりする。そもそもレトロ建築とは一般的に明治、大正、昭和期に建てられた西洋の建築様式の影響を受けた歴史が感じられる古い建物をいうのだそうだ。そして一歩路地裏に入ると昭和の時代にタイムスリップしたような空間もある。しかし時代のながれで所々建物が取り壊されて建て替えとなり、新旧入り混じった街の顔が見え隠れしているのを感じる。これまでの取材の話でも聞いてきたが神保町の街の復興もそうであったように、日本の都市の近代化は戦災や人災、天災を機会に進んできた。特に第二次大戦の戦後復興からはじまり、高度経済成長期を経て豊かになった時代にそれまでのスクラップアンドビルドを改め建築のシンボル性が再考される。しかし平成不況で再開発やデザイン重視の建築が進まず、戦後初期の雑居ビルなどが老朽化したまま残されて今の雑然とした街並みになったというある建築史の解説を読んだ。その間、私たちの記憶に残る阪神淡路大震災、東日本大震災など大きな地震を経験し、耐震性評価や復興・都市計画という問題にも向きあった。そうしたながれや現実を振り返り、取材の際の新宮さんの本の説明のなかで語ってくれたモダニズム、メタボリズム、現代建築とそこに名前のあがる巨匠から若手の建築家たちの思想や作品などにふれてみるとますます建築の世界の面白が感じられるような気がした。それを身をもって体験しようというのが本棚のコーナーにもあった街歩きガイドである。街歩きは知的好奇心を誘い、ほどほどの運動にもなるので健康的だ。我々中高年には恰好のアクティビティだと思う。あてもなくふらっと散策するのもいいが、その前に少しその街の文化や歴史、そこにある建築にも興味をもって少々のウンチクを語れるくらいになるのもちょっとした大人の楽しみではないだろうか。建築に興味を持った方は神保町を訪ねたついでに同店を立ち寄ってみては。

最後に一言

建築に関するものは洋書、和書、雑誌を問わず、一般の書店では置いていない国内外の作品集などもふくめ古いものから新しいものまで取り揃えています。是非お立ち寄りください。・・・南洋堂書店、新宮さんありがとうございました!

取材日 2023.1.27 ライター:みずも