2022/07/22 14:44

「ようこそ本の街、神保町へ!」 No.7 一誠堂書店さん

今回紹介するのは一誠堂書店さん。取材に応じてくれたのは店主の酒井健彦さん(75)。

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同書店は国文学、歴史、民俗、宗教、郷土史、美術。和本、洋書など文科系古文書全般を扱っている。創業は明治36年、祖父の宇吉氏が同郷の長岡出身の大橋氏が営む神保町の東京堂書店さんで3年の丁稚奉公の末、独立開業したという。神保町周辺はその昔武家屋敷で、その跡地に大学ができ、出版社、取次、書店などが集まったという経緯がある。先輩が使ったものを古書店が買い取ってまた次の学生が使う、リサイクルによって本が流通していった。一誠堂さんは本の街、神保町にあって創成期から書店を構えている老舗の一角だ。以前取材した沙羅書房さん、崇文荘書店さんはじめ神保町の表通りに店を構えるほかの書店も一誠堂書店さん出身者は多い。お店で扱う本について聞いてみる。日本に来たヨーロッパの宣教師などの外国人が異質の文化に接して驚き、日本の状況を書き記してローマ法王に報告したり本国に伝えた。それが桃山時代からあった。アメリカもまだ国として誕生していない頃の話だ。江戸時代にも鎖国で外国人が来てないようで実は来ていて、日本の情報が伝わっていた。そんな昔、西洋の人が日本をどう見ていたか知る興味深い書籍を取り揃えている、と酒井さん。

店の取引先は国内外の大学、図書館、美術館が多い。しかし今は高額で買い取ってくれるところが少なくなった。何より日本の研究機関などは海外に比べて予算がないのだという。海外ではハーバード大学でアジア関係図書館ができたが蔵書の2/3は中国のものが占めているという。日本研究が脚光を浴びることがあるとはいえ、かつては日本の図書が1/2を占めていた時に比べると、国の勢いというのは研究対象となる図書にも影響を与えてしまうのだ。また酒井さんは現在の供給過多になっている古書業界の流通事情について話してくれた。今でも大学の教授など個人のコレクターから本を仕入れているが、一方で買い手でもある。ところが本を買ってくれていた世代の先生が亡くなるとまたその先生の持っていた本が市場に出回るようになる。さらに戦後70年経って蔵書が十分溜まり、図書館も逆に本を売る時代。これが30年くらい前だったら次のコレクターが出て来たが、今はそれを買う人、フォローする人が減ってきているのだそうだ。研究機関などもネットと設備にお金をかけて本代には回らないという。

やはり本に興味をもってもらわないといけない。今の学校教育はますます実利思考で理系に比重がおかれてしまっている。もっと文系の教育を見直さないと、ものを読む力、考える力が衰退していってしまうのではないか?酒井さんは疑問を投げかける。リベラルアーツという文系、理系の区別をこえた教養教育の見直し論がある。今は問いを作ることや、話し合って思考の相互作用を起こすことを求める傾向があるというが、歴史、哲学、宗教などの教養はすぐに使えない知識であっても先の答えが見いだせないこれからの時代にこそ必要と言えるだろう。

次に神保町を担う人たちへのメッセージ

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酒井さん自身も神保町で生まれ、学生時代は外で過ごしたというが長くこの町を見てきた一人だ。この10年、20年の間に表通りから古書店が減っている。確かに書店業界は苦戦しているが、活字の文化はなくならない。一歩裏通りのビルで事務所を借りて販売はインターネットを通してやっている新しい古書店が出てきている。廃業はあっても書店自体の件数はそれほど減ってないのではないか。さらに最近ではシェア型書店など棚主、お客のコミュニティづくりに注目した新しいながれもあるがこれからを見守る必要もあると思う。書店人同士では市場をとおして本の売り買いだけでなく人と人、世代の架け橋となって自然と交流が深まる場がある。ネット社会ともうまくつきあってやっていくことも大事。若い人がどんどん業界に出てきて、研鑽を積んで頑張ってくれれば良い芽が出てくるのではないか。

最後に一言

古書をより手にとりやすく、身近に感じてもらえるよう、ホームページの情報の充実を図っています。最近では映画、演劇関連も力をいれています。

一誠堂書店酒井さん、ありがとうございました!

ライター:みずも(2022.7.5取材)