映画『キリマンジャロの雪』、6月9日から岩波ホールで |
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2012年 4月 3日by 竹内みちまろ | ||
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岩波ホールで2012年6月9日から公開の映画『キリマンジャロの雪』の試写会が都内で開催されました。フランスの港街マルセイユで暮らす結婚30周年目を迎えたカップルのヒューマンドラマ。『マルセイユの恋』(97)のロベール・ゲディギャン監督がヴィクトル・ユゴーの長編詩から着想を得て製作。内容をご紹介したいと思います。
『キリマンジャロの雪』
原題:Les Neiges du Kilimandjaro
監督:ロベール・ゲディギャン
出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、マリリン・カント
製作:2011年/フランス
時間:107分
日本公開:2012年6月9日
詳細:岩波ホールホームページ
マルセイユに住む50代の夫婦。夫ミシェルは組合委員長として働き続け、妻のマリ=クレールは通いの家政婦をしています。2人は、姉妹夫婦、息子と娘、孫たちに囲まれて暮らしていましたが、ミシェルがリストラの憂き目に遭い、しかも、いっしょにリストラされた青年がミシェルの家に強盗に押し入りました。
2011年製作ということで、世界的に経済が悪化するなか、ここマルセイユでも再就職は難しい模様。皆が自分のことで精一杯で、加えて、ミシェルたちが積み上げてきた闘争の歴史と精神は、もはや、若者たちには通用しなくなっていました。
印象に残っている場面があります。働き口が見つからないミシェルは、夕方、バルコニーのイスに座り、オリーブの実をかじりながら一杯やっています。そこに、マリ=クレールが帰って来るのですが、ミシェルは、“30年前の俺たちが、路地から、この風景を見上げたらどう思っただろう”と告げます。マリ=クレールは笑みを浮かべながら、“小市民”と答えていました。
ストーリーは、強盗に入った青年が幼い2人の弟の面倒を見ていることを、夫婦が知ることで展開します。対岸に近代的な高層ビルがそびえる埠頭でダンスパーティーを開いたり、家族の帰りを待ってテラスで食事をしたりする場面など、港街の市井の風景が随所に見られ、海と、風と、太陽と共に暮らしてる人々の生活が垣間見えました。そんな中でも、犯行を知った家族の口から出た「何が変わったの。なぜ、人を殴ってまで奪うようになったの」という言葉には、景色は変わらなくても、人々の心が変わっていることを暗示させます。
本作は、犯罪に巻き込まれた夫婦が、迷いながらも、ある選択をすることでクライマックスへと向かいました。ユゴーが信じ、ロベール・ゲディギャン監督が信じたものは、いまだ厳しい経済・社会環境にある日本の人々の心にも、あると信じたく作品でした。
(竹内みちまろ)