映画の街・シネマクラブ

岩波ホール創立45周年記念上映『八月の鯨』、2月16日から

2013年 1月 17日by  竹内みちまろ
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 2013年2月16日から4月5日までの7週間、岩波ホールで、映画『八月の鯨』が上映される。岩波ホール創立45周年記念上映。

 『八月の鯨』は、アメリカ・メイン州の小島の別荘で暮らす老姉妹の物語だ。冒頭、モノクロの映像でも分かるほどの真っ白なドレスを来た若き日の姉妹が登場する。姉妹は岬に出て、鯨を眺める。かつて、入り江には、毎夏、鯨が舞い込んできた。水上に浮かぶ「時の鐘」が映し出され、空と海が真っ青に変わっていく。モノクロからカラーへの映像転換で、2人に流れた歳月が表現される。撮影当時91歳の無声映画時代最高の女優リリアン・ギッシュと、ハリウッド黄金時代を築いた当時79歳のペディ・デイヴィスが老姉妹役。冒頭から、映画ファンの心を鷲づかみにする演出だ。

 物語は、別荘に来訪者たちがやってくることで展開する。それぞれの人間たちが歩んできた道のりは、「どの戦争?」「前の、ドイツと戦ったやつ」などという、さりげない会話から浮かび上がってくる。老姉妹の姉は、第1次世界大戦の時、夫を失った妹の面倒を15年間見た。今では、妹が、視力を失った姉の世話をしている。

 『八月の鯨』は、「時間」と「場所」の美しさが際立った作品でもある。

 老いた妹は、結婚記念日の月夜、軍服姿の若い夫の写真をテーブルに置き、琥珀色のアルコールをグラスに注ぐ。手動の蓄音機でSP盤のレコードをかけ、テノールが響く部屋で、月明かりに照らされた夫の遺影に語りかける。妹自身は意識することはないだろうが、妹の人生と、その場所、その時間の美しさが、見る者には伝わってくる。

 本作は、1989年末に岩波ホールで公開された。31週上映という、時間の感覚が変わってしまった現在では考えられないほどの長期間の公開となり、入場者数でも岩波ホール歴代3位を記録。日本での異例の大ヒットのニュースはアメリカにも届き、リリアン・ギッシュはじめ、監督、プロデューサーたちから、続々と、個別の礼状が届いた。

 それにしても、老い、人生、家族、老後などを描いた作品が、88年から89年というバブル経済の時代に代に大ヒットを飛ばしていたという事実も印象深い。何かが始まる前には、何かが終わる。人々は、時代の異変を予感していたのか。

 2013年が明けて、今年からほとんどの劇場がデジタル上映となった。アナログからデジタル、レコードからCD、ビデオからDVDと、インフラやフラットフォームが変わる時、現場の息づかい、映り込んでしまった人のうしろ姿、枠組みに収まりきらない光や音など、必ず何かが「ノイズ」として切り捨てられる。技術革新には避けられない現象だが、『八月の鯨』は、89年当時と同じ字幕で、ニュープリント版のフィルムを同じスクリーンで上映するという。

 震災後と言われた2012年が終わり、新たな年を迎えた今年、『八月の鯨』で、映画の美しさを味わってみてはいかがだろうか。(竹内みちまろ

『八月の鯨』
原題:THE Whales of August
製作:1987=アメリカ
時間:91分
監督:リンゼイ・アンダースン
出演:リリアン・ギッシュ、ベティ・デイヴィス、ヴィンセント・プライス、アン・サザーン、ハリー・ケリー・ジュニア
(C)1988 Alive Films,Inc.and Orion Pictures Corporation.All Right Reserved.
2013年2月16日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

岩波ホールホームページ:http://www.iwanami-hall.com/


 

 

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